自民党総裁選 各候補者の政策比較【安全保障編】

ニュースで話題の自民党総裁選についてわかりやすく解説していきます。他の記事で「自民党総裁選の仕組み」や「各候補者の政策比較【経済政策編】」の説明もしていますので、よければご覧ください。

さて、自民党総裁選では様々な政策が争点になっていますが、Yahooニュースの調査では皆さんが一番興味を持っている争点は「外交・安全保障」だそうです。なので、その安全保障について、各候補者の政策を解説していきますね。

そもそも安全保障とは?

本題に入る前に安全保障とは何かということについて説明したいと思います。説明が不要な方は読み飛ばしてくださいね。

「安全保障」とは、国民が安全で安心して生活できる状態を保つことです。このように説明すると軍事的なことのみをイメージされる方が多いかもしれませんが、この目的を達成する手段は軍事だけではありません。

例えば日本は食料やエネルギーの多くを外国からの輸入に頼っています。食料がなければ生きていけませんし、エネルギーがなければ自動車や電気ガスも使えません。そのような状態で安心して生活ができるでしょうか。

食料やエネルギーを安定的に確保するということも安全保障に含まれますが、このためには軍事力は必要ありません。貿易に関することなので、分野で言えば「経済」や「外交」になると思います。

また、他の国やテロ組織から攻め込まれて国民の命が危険にさらされるの防ぐためには、巨大な軍事力を必ずしも持っている必要はありません。いざというときに日本を助けれくれるような友好的な国を増やすような努力をする。あるいは、政治情勢が不安定な国の政府を援助して、テロ組織が国を支配することがないようにするなどの方法もあります。これも分野でいえば「外交」と言われるものです。

このように安全保障とは、軍事だけではなく、経済、外交など様々な要素を総合的に考える必要があります。4人の候補者の政策もこのような視点で総合的に解説していきたいと思いますので、よろしくお願いします。

各候補者の政策比較

4人の候補者の安全保障に関する政策をまとめると次のようになります。なお、ここに挙げている政策は基本的に各候補者の公式ホームページから抜粋していますので、ご承知おきください。

候補者安全保障政策
河野 太郎 ・サイバー・宇宙、電磁波など新しい分野における自衛隊の防衛能力を向上させる
・自由と民主主義、法の支配、人権といった基本的価値を守る同盟を構築し、国際社会の中で、日本の確固たる地位を確立する
岸田 文雄・ 日米同盟を基軸に民主主義、法の支配、人権等の普遍的価値を守り抜き、国際秩序の安定に貢献していく
・ 安全保障環境が一層厳しさを増す中、我が国の領土・領海・領空及び国民の生命と財産を断固として守り抜く
高市 早苗・ 機微技術・先端技術・戦略物資・個人情報の海外流出を阻止するために『経済安全保障包括法(仮称)』を制定する
・『中国海警法』(今年2月施行)に対応できるよう、『海上保安庁法』の改正に取り組む
・ 新たな戦争の態様に対応できる国防体制を構築する
野田 聖子 ・人口減少は安全保障の問題

これを見ただけではよくわからない政策が多いと思いますので、1人ずつできるだけわかりやすく解説していきます。

①河野太郎氏の安全保障政策

「サイバー・宇宙、電磁波など新しい分野における自衛隊の防衛能力を向上させる」

まず「サイバー」についてです。戦争などの戦闘シーンといえば、ミサイルよる攻撃、戦闘機からの空爆、歩兵による戦闘などがイメージされますが、これらはインターネットによる通信がなければ成り立ちません。

ハッキングなどにより、相手の通信網をダウンさせてしまえば、戦わなくても勝つことができます。逆にこちらとしてはサイバー攻撃からの防御力を高める必要があります。サイバー分野は実際の戦闘力と同じように重要度が増してきているため、この分野での自衛隊の防御能力の向上が必要になります。

次に「宇宙」です。現在の軍事には人工衛星が不可欠です。GPSによる位置情報、敵国の監視には人工衛星が必要です。2007年に中国が人工衛星破壊実験を行ったことがきっかけとなり、宇宙空間での戦闘への備えが求められてきています。

2015年には中国とロシア、2019年にはフランス、アメリカで宇宙での戦闘のための組織が創設されています。日本においても2020年に自衛隊に「宇宙作戦隊」が創設され、日本の人工衛星を守る体制を整備しています。

自衛隊の宇宙作戦隊はJAXAやアメリカ宇宙軍と協力して、人工衛星に影響を及ぼすスペースデブリ(宇宙ゴミ)や他の国の人工衛星の監視などを行っており、現在、20名の隊員がおり、将来的には100名まで増員する計画となっているようです。しかし、アメリア宇宙軍は将来的に15,000名まで増員を予定しているのに対して、規模が小さいため、この分野にも力を入れることを考えているようです。

最後に「電磁波」です。強力な電磁波を発生させることでレーダーや通信設備などの電子機器を誤作動させたり破壊させたりすることができます。日本としてはこのような攻撃からの防御力を強化するため、設備をステルス化して見つかりづらくするなどの対策が必要になります。

これまでの戦闘は陸海空が対象でしたが、「サイバー」、「宇宙」、「電磁波」という分野が新しく生まれました。これらの分野はまだ始まったばかりでどのように発展していくのか正直わかりませんが、日本としては乗り遅れてはいけないので、河野氏はこの分野に力を入れていくとのことです。(河野氏は攻撃ではなくあくまで「防御」に力を入れると主張しているようです。)

「自由と民主主義、法の支配、人権といった基本的価値を守る同盟を構築し、国際社会の中で、日本の確固たる地位を確立する」

1つ目は軍事での政策でしたが、こちらは外交の政策です。中国を意識したものだと思いますが、アメリカなどの基本的な価値観を共有する国との同盟関係を強固にすることを目指すものです。特にアメリカとは日米安全保障条約いわゆる日米同盟を締結しています。これは簡単に言うと日本が攻撃されたときにアメリカが守ってくれるというものです。

その代わりに日本はアメリカ軍の基地を提供しています。日米同盟に基づきアメリカ軍が日本にいるため、もし日本に攻撃をすると世界最強のアメリカ軍から反撃を受けます。アメリカ相手に勝てる国はいませんので、自分が滅んでもいいから、日本に攻撃するという国はおそらく現れません。これが「抑止力」になります。

アメリカとの日米同盟ほど強力な同盟を他の国と結ぶのは難しいですが、日本に友好的な国を増やすことも大事です。特にASEANなどアジアの国と友好な関係を築いておくことにより、もしお互いに何かあったときに助け合うという関係性ができます。

仮に中国がどこかの国に手を出そうとしたときに、他の多くの国から非難や経済的な制裁をされるとなると、手を出すのを躊躇います。反対に世界から孤立している国であれば、他の国から非難などをあまりされないため、手を出しやすくなります。

中国はアジアで領土拡大を狙っています。アジアの国々が対中国でまとまることが安全保障上必要です。しかしながら、日本の安全保障で一番重要なのはアメリカです。アメリカに守ってもらえなければ、日本だけで守ることはできません。アジアの国々との連携も必要ですが、アメリカとの同盟を中心にしていくことになるでしょう。

②岸田文雄氏の安全保障政策

「日米同盟を基軸に民主主義、法の支配、人権等の普遍的価値を守り抜き、国際秩序の安定に貢献していく」

これは河野氏の政策とほとんど同じでアメリカとの日米同盟を基軸として様々な国々と連携していくというものです。少し違うところは、河野氏がアジアとの連携に力を入れるとしていますが、岸田氏はアジアだけではなく、インド、オーストラリアを含めたインド太平洋地域との連携強化を挙げているところです。

「自由で開かれたインド太平洋」という2016年に安倍前総理が提唱し、菅内閣でも引き継がれている構想があります。世界地図を見てもらうとわかるように、アジア、アメリカ、オーストラリア、インドが太平洋とインド洋をグルっと囲んでいます。これらの国々と同盟関係が築けると、インド太平洋での貿易が安全に行うことができます。

なぜ海がそんなに重要なのかといいますと、島国である日本は船による貿易がほぼ100%を占めています。またエネルギーである石油はほぼ全て輸入に頼っており、特に中東アジアからの輸入が約8割です。世界地図をもう一度見てもらいたいのですが、中東アジアから日本まで船で石油を運ぼうとするとインド洋と太平洋を必ず通過します。

このことからもわかるように、インド太平洋地域での貿易が安全に行えるかどうかは日本にとって死活問題なのです。そして、このインド太平洋地域で問題になるのが中国です。「自由で開かれたインド太平洋」も中国に対抗するための構想なのです。

「安全保障環境が一層厳しさを増す中、我が国の領土・領海・領空及び国民の生命と財産を断固として守り抜く」

これについてよくニュースで取り上げられている争点として、「グレーゾーン事態」への対応があります。そもそもグレーゾーン事態とは何かといいますと、攻撃は受けていないけれども、領海に侵入されている状態などを指します。

実際に攻撃を受けていれば、自衛隊が出動して武力を行使して対応、要は反撃することができます。しかし、相手が明確に攻撃の意思を見せていない場合、例えば日本の領海に入ってきた船に退去を求めてもそれに従わないなど不審な行動をとっているときがグレーゾーン事態です。

現在の法律ではこのような事態では海の警察である海上保安庁が対応します。しかし、警察としての対応では限界があります。岸田氏はこれに対応するため、自衛隊が出動し警察権以上の対応ができるようにする、もしくは海上保安庁の権限を強化するための法整備を検討するとしています。

③高市早苗氏の安全保障政策

「機微技術・先端技術・戦略物資・個人情報の海外流出を阻止するために『経済安全保障包括法(仮称)』を制定する」

高市氏が掲げる安全保障政策の柱は「経済安全保障」と「国防力」の強化です。そのうちの1つである「経済安全保障」の強化にあたるのがこの政策です。

これも中国を念頭に置いたものになりますが、中国からの研究者や留学生が日本の企業から入手した技術を中国に持ち帰ってしまう可能性があります。これに対応するため、研究者や留学生を身辺調査を行い、中国共産党のスパイではないかなどを調べる必要がありますが、現在、これに対処できる法律はありません。

特に怖いのは軍事技術に転用が可能な最新技術などを中国に持ち出されることです。無防備な状態を是正するため、法整備の必要性を訴えています。

また、合わせて秘密特許の必要性も訴えています。特許を取得した技術はその内容が公開されるため、中国などが真似をすることができます。軍事転用できる技術などは外国人には秘密にする秘密特許を可能にすることも経済安全保障包括法には盛り込むとのことです。

「『中国海警法』(今年2月施行)に対応できるよう、『海上保安庁法』の改正に取り組む」

これは岸田氏のところで説明したグレーゾーン事態への対応のことです。政策としては岸田氏とほぼ同じで海上保安庁法や自衛隊法を改正して対応するとのことです。

「新たな戦争の態様に対応できる国防体制を構築する」

新たな戦争の態様ということで、新しい分野への対応の必要性を訴えています。その分野は衛星、サイバー、電磁波、無人機、極超音波兵器です。衛星、サイバーと電磁波は河野氏のところで説明しましたので、割愛しますが、無人機、極超音速兵器について説明します。

まず無人機についてですが、無人機とはドローンのことです。他の国ではすでに実戦で使われているようですが、ドローンを使って攻撃や偵察を行っています。これに対応するためには日本も無人機を所有する必要があります。また、下で説明する極超音速兵器に対応するためにも無人機が活用できるようです。

次に極超音速兵器です。これはマッハ5以上の超高速で飛んでくるミサイルでレーダーをかいくぐってくるため、迎撃が非常に難しい兵器です。これに対応するために高市氏は発射の兆候がわかったら、発射前に敵の基地を無力化することができるように法整備を行うようです。

④野田聖子氏の安全保障政策

「人口減少は安全保障の問題」

他の候補者とは少し違う切り口の政策です。現在、日本の人口は減少しています。人口減少や少子高齢化も影響しているのか自衛隊はここしばらく定員割れの状態となっています。自衛隊や警察など国民を守る組織のマンパワーが低下してしまうことは安全保障上の問題です。

安全保障と言うと軍事的な防衛手段ばかりに注目が集まりますが、その防衛を担う存在がいなければ、机上の空論になってしまいます。そのため、人口減少を安全保障上の問題と捉えて対応の必要性を訴えています。

まとめ

4人の候補者の安全保障政策について説明しましたが、皆さんおわかりいただけたでしょうか。僕の印象としては、野田氏のみが軍事力、防衛力の強化ではなく対話による外交に力を入れるというスタンスで他の3人は一定の軍事力、防衛力を日本が持つことをベースに日米同盟やアジア太平洋地域の国々との連携を強化していくとのスタンスであると感じました。

また、河野氏、岸田氏、高市氏の中では河野氏の岸田氏はあくまで日米同盟による防衛を重視していますが、高市氏は日米同盟による防衛はもちろん前提としていますが、日本が自ら防衛力を持つことの重要性を訴えているように思います。

僕個人的には岸田氏の政策が一番良いのではないかと思いました。皆さんはどの候補者の政策が良いと思いましたか?いよいよ総裁選の投票日になります。世論調査などでは河野氏が優勢のようですが、どのような結果になるか楽しみにしたいと思います。

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